世界で初めてのヘモグロビン・サーモダイナミックス (10)

自発過程とギブスエネルギー変化の負の値

ギブスエネルギーについての説明

ある系内における熱力学関数の変化によって、
自発的な現象を説明できる簡便な方法を確立しました。

それがギブスエネルギー(G)と呼ばれる関数で、
次の式で与えられます。

G=H-TS

Gはギブスエネルギーで、単位はカロリー又はジュール
Hはエンタルピーで、単位はカロリー又はジュール
Tは絶対温度で、単位はK°(度K) (絶対零度はー273.15℃)
Sはエントロピーで、単位はカロリー/絶対温度又はジュール/絶対温度

自発過程を表す熱力学第二法則の式を変換してみます。
ΔSuniv = ΔSsys + ΔSsurr ≧ 0  (熱力学第二法則の式)

エントロピー(S)は熱量(Q)を温度(T)で除した値なので、
S(エントロピー)=Q/T となり ΔSsurr = ΔQsurr/T となります。

系の温度が外界と熱平衡にある状態で系の温度は一定で出入りした熱量は等しいので、
ΔQsurr/T = -Δ Qsys/T と符号が逆になります。

ΔSuniv = ΔSsys + ΔSsurr ≧ 0 をΔSuniv = ΔSsys-Δ Qsys/T  ≧ 0 と書き直し、
両辺に-Tを掛けて-TΔSuniv = Δ Qsys - TΔSsys ≦ 0 とします。

ΔG = -TΔSuniv とおくとΔG = Δ Qsys - TΔSsys ≦ 0 となります。
ギブスエネルギー(G)はG = Qsys - TSsys で表されます。

一定圧力の下で気体に熱量を加えると、
内部エネルギーの増加の他に気体は膨張することで外界に仕事(W)をしてしまいます。

上記の理由から気体の全エネルギーを考える時には、
内部エネルギー(U)とは別個のエネルギーを考慮する必要が出てきます。

そうした観点から内部エネルギー(U)と外界にした仕事(W)との和から成る、
気体の全エネルギーをエンタルピー(H)としました。

外界にした仕事(W)は次の式で表されます。 W=PV 
Pは圧力で、単位は気圧(atm)
Vは体積で、単位はリットル(ℓ)
1 l atm (リットル・アトモスファー) = 0.10204 kJ≒0.1 kJ (キロジュール)

H = U + PV
G  = Qsys - TSsys 
式中 Qsysは気体を含むことのある系に加えられた熱量。

Qsys = Hsys であるから、
G =Qsys - TSsys = Hsys - TSsys となります。

ある系内における熱力学関数となったのでsysを省略します。
G = H - TSとなります。

一定温度 (温度変化を無視し得る条件) の下で、 
ギブスエネルギー値(G)の変化は次の式で表されます。
ΔG= ΔH - TΔS 
ΔG = ΔH - TΔS ≦ 0 のときにその系の変化は自発過程となります。

ΔG = Δ Qsys - TΔSsys ≦ 0 と ΔG = ΔH - TΔS ≦ 0 とは同じ式です。
系内のギブスエネルギー(G)の変化量(ΔG )を評価することで自発過程についての判断が出来ます。

未完

参考文献:
生命科学系のための物理化学
Raymond Chang著 岩澤 康裕・北川 禎三・濱口 宏夫 訳 
東京化学同人

エントロピーの正体 アリー・ベン=ナイム著 小野喜之 訳 
丸善出版株式会社

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/41/2/41_2_74/_pdf/-char/ja