世界で初めてのヘモグロビン・サーモダイナミックス(11)

ヘモグロビンの協同性

ヘモグロビンの協同性とは、
4個のヘム機構を持つデオキシヘモグロビン1分子に、
1分子の酸素分子が配位すると次の酸素分子の配位する反応速度が加速され、
4分子の酸素分子が配位するまで反応速度の加速が連鎖すること、
及び、オキシヘモグロビン1分子から、
1分子の酸素分子が解離すると次の酸素分子の解離する反応速度が加速され、
4分子の酸素分子が解離するまで反応速度の加速が連鎖することです。

興味深いヘモグロビンの協同性については、
多大な経費と時間とをかけて様々な研究がなされた。
ポリフィリン環の平面性と非平面性との間で生ずるコンフォメーション変化が、
情報伝達機構になるとする説があります。
また、協奏的全て又は無の対称性保存モデル等が提唱されています。         


ギブスエネルギー値は状態量であるから、                                         
始めの状態と終わりの状態とを定めると経路によらず一定になります。

それでもヘモグロビンの協同性は中間体を含む概念であるから、
反応経路上にある中間体を含めて論じる必要があります。

化学反応についての熱力学的支配と反応速度支配とは必ずしも一致しませんが、
へモグロビンの酸化還元反応はその中間体を含めて極めて類似する反応であるから、
それらの関係は強い相関を持っていると推定されます。
即ち、熱力学的支配関係から反応速度支配関係を予測することが可能であると解します。
反応速度支配の結果現れるヘモグロビンの協同性について、
熱力学的支配の見地から推定します。

fig-7 色塗りした部分

fig-7を見て下さい。
色塗りした部分を上から下に向かって読み取ります。
縦方向に長い程ギブスエネルギーの低下が大きくなります。
中間体である色塗りした下方部分のほうがギブスエネルギーの低下に大きく貢献しています。
肺胞の毛細血管内と体の組織の末端との双方に於いて、
1分子の酸素分子が反応を開始すると、
直ちに4分子の酸素分子が反応する様子が理解できます。

尚、全ての図は相対的な関係を示したものであり、
絶対値としての意味はないことに留意して下さい。

未完

参考文献:
生命科学系のための物理化学
Raymond Chang著 岩澤 康裕・北川 禎三・濱口 宏夫 訳 
東京化学同人

エントロピーの正体 アリー・ベン=ナイム著 小野喜之 訳 
丸善出版株式会社

ヘモグロビンへの配位子結合過程を直接観測 理化学研究所  足立 伸一 城 宣嗣
https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2003/20030609_1/20030609_1.pdf

ヘム電子論によるヘモグロビンの協同的酸素結合機能の解明
山本 泰彦(筑波大学) 太 虎林(筑波大学
https://core.ac.uk/download/pdf/56655512.pdf

ヘモグロビンのヘム間相互作用のメカニズム
森本 英樹(阪大基礎工) 今井 清博(阪大医)

蛋白質工学によるヘモグロビンの協同効果発現機序の研究
4次構造転移における特定水素結合の寄与
石森 浩一郎、森島 續、 今 井 清 博、 伏 谷 建 造、 宮 崎 源 太 郎、 森 本 英 樹、 北 川 禎 三、 和 田 芳 直、ShinD、Tame J、Pegnier J、 Nagai K
京都大学大阪大学大阪府母子医療センター、MRC. Lab. of Mol. Biol.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys1961/29/supplement/29_supplement_S45/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/41/2/41_2_74/_pdf/-char/ja